じっくりコトコト

のんびりゆるり備忘録

あるエンターティナーの話。

 

それは正に、青天の霹靂。

 

なんとなく意図を察して、時折意表を突かれて惑わされて、その遊び心がくすぐったかった「月末」の暗黙ルール。

左上隅っこの特等席。テンションの高い時限定で目立ちたがりになる彼に似て、気まぐれに主張するそれが可愛かった。

 

しかしその魔法もまた、気まぐれな彼によって解かれた。それは、ちいさな秘密の終わりと、なんとも贅沢な「月末」の約束。

彼の「今月はどんな1カ月でしたか?」という言葉とともに、1カ月を振り返るのが好きだった。この問いかけに明るい言葉を返したい。その思いは、いつも心を暖かく包んで軽くしてくれた。だから今月も、なんてそう思っていたあの日。

 

無秩序に散らかった混沌と動揺。私の知る、彼とは真逆のそれに滲む違和感と戸惑い。何度も何度も読み返して、得られる情報と忙しい感情を、動かない頭で咀嚼して。そしてようやくストンと落ちてきた彼の悪戯と、途端に押し寄せる喜びと愛しさを噛み締めながら「またやられてしまった……」と天を仰いだあの日。

実を言うと、私は少々鷹をくくっていたのだ。あまり言葉にしない彼にしては珍しい気まぐれ。それによってドミノ倒しのように従順に落ちていく私達を見て、なんとなく裏を返してみたくなっただけだと。それはそう、彼にとっては砂時計をひっくり返すだけの感覚で。

 

しかしその翌日、私の呑気な分析をひらりと交わした彼は、なんの前触れもなしに「毎日」更新の幕を開けたのである。

 

知らず知らずのうちに彼のシナリオに巻き込まれ、オーディエンスとして配役された私達は、日々彼の甘い言葉に踊らされ続けた。ストーカーチックなあの人の意味深な更新。使うことを躊躇した返信機能。巧みな謎解き。どこからが思いつきでどこからが計画なのか彼にしか知ることの出来ないシナリオは、少し歪で、だからこそ魅力に溢れていた。

 

「期間限定」を念頭に置くことで一旦気持ちを落ち着かせてみたものの、どんどん裏切られていく予想に反して主張を増す終わりの存在。不確かでいて明瞭なそれに気づかないフリをしたくなることもあった。

だけど、忘れずに毎日更新してくれる彼を思うと、なんだか申し訳なくて。不安定な毎日がもどかしくて。忘れてくれてもいいのに、なんて思うこともあった。

そんな矛盾した思いがぶつかり合う訳でもなく、ただそっと共存するような日々だったように思う。幸せの裏にひっそりと寂しさが潜むような、そこから目を背けたいのに目を向けざるを得なくて、でもどこか見たい気持ちもあるような。彼のシナリオには、そんな撞着と中毒性があった。

 

そして3月15日、44日にも及んだ更新はついに幕を閉じた。

 

「慣れた」「当たり前」「飽きた」

そういった感情を少しでも抱いたことはなかったかのように思う。

 

レギュラー番組やラジオ、雑誌もコンスタントにあり、加えて新曲リリースにつき歌番組、ライブにはリハーサルや会議だってついてくる。演技の仕事や海外での仕事も増えてきた。思いつく限りでも目が回りそうなのだから、実際その多忙さは、ぬくぬくと育ってきた私には想像すら及ばない。

しかし、そんな多忙な彼が、貴重なプライベートの時間を私達との繋がりの場に当ててくれたこと。それは何ものにも代え難い事実で。優しい彼からの、唯一無二の贈り物。それが本当に嬉しくて、幸せで、あぁこんな在り来りな言葉で表したくないのにと頭を抱えてしまうような。表現のしようのないことすら、愛しく感じるような。そんな気持ち。そして、続けてくれたこと。その優しさは、日常の一部になどなり得なかった。

 

雑誌媒体でのインタビュー。脚色と解釈の手助けが加えられることによって、より読みやすくより気軽に楽しむことができるし、解釈の差異が生まれずらい。しかし、彼らの言葉をそのまま感じることは出来ない。

それを踏まえた上で、彼らの言葉を誰の手も加えられずにそのまま感じられる、それこそがこのツールの最大の魅力だと、私は常々感じていた。まるで宝物を探し出すように、何度も何度も読み返しては文体の癖に特徴や共通点を探し出す。九人九色の文章。「独特な絵文字使うんだなぁ笑」だとか、「きっとたくさんの時間をかけて、この文を考えてくれたんだろうなぁ」だとか。見つけた後は少し知ったような顔をして、自分の中の偶像にひとつまみの信憑性をまぶして。

その魅力を活かしたまま、新しい角度で彼はまたその秀でた発想力を私たちに展開してみせた。恋人と錯覚してしまいそうな取り留めのないやり取り。前代未聞の返信機能。協力一体型の謎解き。彼の発想力と創造力の産物、それはもはや、誰にも真似の出来ない新感覚のエンターテインメントだった。

 

そして漠然と予感していたフィナーレは、盛大に訪れた。

「あなたに見合う男になって帰ってくるまで待ってて欲しい。」

何も知りませんというふうにお得意のきょとん顔でファンを転がす策士。だけど、謙虚で優しく、誰も傷つけない終わり方に、彼らしさを垣間見て愛しさがこみ上げた。「ああ、この人のことが好きだな。好きになってよかったな。」なんてしみじみと浸ったりもして。いつも素敵な贈り物をくれる彼を思いながら、幸せに溺れたりもして。

 

「今日、更新してくれるのかな?」っていっぱいのワクワクとドキドキをひとつも零さないように慎重に、でもどうしても地面のちょっと上を歩いちゃって。口角も自然と上がってしまうような帰り道も。何度開いても新鮮に映るときめきも。いつもより近くに感じる錯覚も。彼が灯してくれた暖かい灯も。優しさがやみつきになる非日常も。全てが愛しくて、全てが、私の大切な宝物。

 

だから、私は忘れたくないのだ。

あるエンターティナーが残してくれた、

長い長い夢のような物語を。

彼が見せてくれた見たことのない景色を。

続けてくれた優しさを。

 

そして最後にこの言葉を贈りたい。

 

 

ありがとう。